Cedep 発達保育実践政策学センター

第29回 発達保育実践政策学セミナー

日時
2017年11月29日 (水) 17:30〜19:00
場所
東京大学教育学部 第一会議室
講演

「興味の共有行動の初期発達と大人の関わり」

福山寛志(東京大学大学院総合文化研究科)

本講演では、指差しや模倣など、乳幼児が他者と興味・関心などを共有する行動の発達や、それに対する養育者側の働きかけについて、福山先生がこれまでに行われてきた実験心理学的アプローチによるご研究を中心にお話いただいた。

ヒトは生まれながらにして“つながり”たがる生き物であり、乳幼児期から他者の知識状態や共有経験を理解することが近年の発達心理学により明らかになりつつある。例えば、生後1歳前後からみられる「指差し」という行為は、当初は興味の対象を得るために用いられるが(要求の指差し)、その後、認知能力の発達や養育者との相互作用による学習経験を通して、興味の対象を共有するために用いられるようになる(叙述の指差し)。福山先生はこうした指差しの発達過程に注目し、子どもが実際に「他者と興味を共有したい」という動機から指差しを行っているかどうかを、1歳前半と1歳後半の子どもを対象に実験的に調査された。その結果、1歳後半の子どもは、他者が興味の対象に注意を向けていること(共同注意)を考慮して、柔軟に指差しを用いることができたが、1歳前半の子どもはこのような柔軟な指差しは示さなかったことから、1歳前半は指差しコミュニケーションの重要な過渡期であることが明らかになった(福山・明和, 2011)。

上記と関連して、乳幼児期から見られる「模倣」という行為を調べた研究についてもご紹介いただいた。模倣には、他者からさまざまな行為や知識を学び(社会的学習)、模倣し合うことで人間関係を築いていく働きがあると考えられるが、乳幼児も他者の行為を模倣する際に、その行為の意図に応じた模倣を行なうことが報告されている。福山先生の行なった研究では、社会情動的な特徴(アイコンタクト、抑揚のある発声、オノマトペなど)がある場合には、14ヶ月児はその行為の意図を模倣するだけでなく、行為の過程(スタイル)についても模倣をすることが明らかになった。こうした行為の過程の模倣は、高度なスキルの習得には必要不可欠であり、乳幼児にとって、他者のコミュニケーションを取ろうとする意図(社会情動的な特徴)が、周囲から学習する対象を選択する上で重要な手がかりになっていることを意味する(Fukuyama & Myowa-Yamakoshi, 2013)。

また、子どもと養育者がやりとりをする際に、養育者側がどのように行為を調整しているのかを調べた研究についてもお話いただいた。大人が乳児に向けた行為を誇張する傾向については、対乳児動作(モーショニーズ)と呼ばれており、モーショニーズは乳児の注意を引きやすく、模倣などを促進する働きがある。福山先生は、このような大人の動作の誇張が乳児の行為能力や学習能力に基づいて行われる可能性について、母親が乳児(6−8ヶ月児、11−13ヶ月児)にカップ重ねを教える場面を対象に、モーションキャプチャーを用いて詳細に検証された。その結果、乳児がどの程度カップ重ねをできたかが、母親の動作に即時的に影響を与えていることが分かった。また、母親側が動作を調整する度合いが大きいほど、乳児側のカップ重ねも向上しやすかったことから、乳児と大人はダイナミックな形で、相互の行為に影響を与え合っていることが明らかになった(Fukuyama et al., 2015)。

福山先生の一連のご研究は、乳幼児が行為を共有する経験が、他者の行為や意図に敏感に応答する乳幼児側の特性に加えて、乳幼児の発達段階に応じた養育者側の働きかけによっても促進されることを実証的に示している。このような基礎的な知見は、今後、自閉スペクトラム症などのコミュニケーションの非定型発達を示す子どもたちや、精神疾患(うつ病、愛着形成障害など)をもつ養育者への社会的支援を行なう上でも大変重要だと考えられる。本講演の最後に、自閉スペクトラム症の成人の感覚過敏に関する最新の研究成果(Fukuyama et al., 2017)についてもご紹介いただいた。

報告: 新屋裕太(発達保育実践政策学センター特任研究員)

参加者の声

  • 乳幼児を対象にした実験室での研究を大変わかりやすくご説明いただき、ありがとうございました。発達過程における指差しや模倣などの行為の重要性を感じさせていただきました。保育園での子どもたちとの関わり方を見直す良い機会になったと思います。
  • マザリーズやモーショニーズなど、大人側の働きかけについても、乳幼児の発達段階によって、無意識のうちに調整されている点をとても興味深く感じました。保育の質を考える上でも重要な知見だと思いますので、今後、大人の関わりの個人差に繋がる要因についても研究が進展していくことを期待しています。
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