Cedep 発達保育実践政策学センター

第3回 発達保育実践政策学セミナー

日時
2015年6月17日 (水) 18:00〜20:00
場所
東京大学教育学部 第一会議室
講演

「異文化間教育研究における乳幼児教育―社会学からの視点」

恒吉僚子(東京大学大学院教育学研究科)

日本における乳幼児期の異文化間教育研究について、現状、これまでの経緯、近隣領域との類似点、欧米諸国との相違点、今後の可能性および課題をお話しいただいた。

まず、乳幼児期の異文化間教育研究の特徴として、家庭や保育現場等の実践で問題が生じると、研究がさかんになされる(逆に、問題が顕在的でなくなれば研究 が減少する)ということが挙げられる。そうした特徴とも関連して、乳幼児期の異文化間教育研究は、主に発達・心理・保育の領域が牽引してきた経緯があり、 社会学ではきわめて周辺的な領域である。しかし、学際的な研究を進めていく上では、特定の領域に偏らないよう取り組んでいく必要性がある。(社会学だけでなく他の領域にも)乳幼児期の異文化間教育の問題が「透けて見える」研究があるのではないか(問題提起とともに、いくつかの「透けて見える」研究領域について例示)。また、日本では、異質性(民族、人種、宗教、国籍等)に対する認識が欧米諸国とは異なることから、国際的な議論と乖離している現状がある。日 本の文脈において「異質性」として何に着目するのか、より複合的な視点から異文化間教育研究に取り組む必要がある。

ディスカッションでは、社会学で保育領域があまり取り上げられずにきた背景や、理論/政策研究と実践志向の研究の両方ができる人材/チームの必要性、日本特有の保育現場の労働環境/権力構造等、活発な議論がなされた。

「赤ちゃんは光を発達にどのように利用するか?」

太田英伸(国立精神・神経医療研究センター)

新生児(主に早産児)の光の知覚の発達と、光環境と新生児の心身発達との関係について、動物実験やNICU(新生児集中治療室)等の研究知見をもとに、お話いただいた。   まず、24時間ずっと明るい/暗い環境にいる新生児と、昼夜のある(サーカディアン・リズムのある)環境にいる新生児とでは、生体リズム(睡眠パターン /活動と睡眠のリズム)が変わってくる。また、NICUでの研究知見から、光環境が新生児の心身発達(体重増加、頭囲/脳の発達、DQ/IQの発達等)に 影響を与えるということがわかってきた。その中で、新生児の発達を促進する装置として特殊な光フィルターを開発し、実際に光フィルターを用いた研究を行ってきた(内容の紹介)。光と関連して、新生児(早産児)の週数によっては、栄養水準や親の教育水準等、環境による影響も示唆された。  ディスカッションでは、昼/夜が極端に長い地域について、光をうまく活用することで、偏りのある光環境の影響を減らせるのではないかというお話があった。基礎から応 用までを網羅してご研究をされている太田先生の、これまでの経緯について伺う中で、現在は研究テーマが細分化しすぎているため、臨床と応用、各々の専門 (例えば、心理、医学、生物等)の人がチームとなって取り組んでいくことが求められるというご指摘があった。

参加者の声

乳幼児期の異文化間教育研究(恒吉先生)と、光環境と新生児の発達(太田先生)という、一見まったく異なるテーマであったが、子どもをとりまく環境につい て、マクロからミクロまで幅広く、非常に興味深いお話であった。また、両者に共通して、多分野の専門領域の人がチームとなり、(特定の領域に偏ることなく)学際的な研究に取り組むことの必要性が指摘されていた。相互に連携しながら、学際的な研究を進めていくという点で、発達保育実践政策学プロジェクトの 今後の取組みにも多くの示唆をいただいた。

報告:淀川裕美(発達保育実践政策学センター特任助教)

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