Cedep 発達保育実践政策学センター

第5回 発達保育実践政策学セミナー

日時
2015年9月9日 (水) 18:00〜20:00
場所
東京大学教育学部 第一会議室
講演

「ライフログの試みと実践:汎用ログと食事ログ」

相澤清晴(東京大学大学院情報理工学系研究科)

ライフログとは、人の生活の有様、体験のデジタル記録のことである。90年半ば頃から関連研究が始まり、2000年以降、研究が散見され始める。初期のライフログは、「汎用志向」のものが主流であった。例えば、ラップトップのコンピューターにGPSなどいろいろのインターフェイスを作り、ソフトを動かすと、バッテリーが続く限り(2時間程度)データを取り続けられるというもので、とにかく何でも記録しようという方向で進んできた。最近では、「特定応用志向」のアプリケーションが登場しつつある。これは、必要なものだけ(興味のあるものだけ)情報を記録するタイプのライフログである。具体的には、日記、移動、運動、睡眠(ねむログ)、食事、生活時間のログがこれに相当する。ライフログは複合体であり、写真、GPS、食事ログ、睡眠ログ、ウェアラブルログ等の情報を集約・連携し、可視化することが目指される。

相澤研究室で開発されたライフログの紹介:食事ログ(FOODLOG)

ヘルスケアのための技術のうち、エネルギー摂取(食事記録)は抜けているもののひとつであった。FoodLog(PC用)、FoodLog App(スマホ用)を開発し、現在では24万人を超える食事記録が入っている(ビックデータ)。食事写真でも個人の食事履歴画像データから検索できるし、キーワードのテキスト入力でも検索できる登録されていない料理は、インターネットで検索して自分で情報を入力できる。全国訪問健康指導協会や、東大病院との共同研究で、食事指導等に活用されている。

ディスカッションでは、ライフログの保育や育児場面への応用という観点から活発な議論が行われた。

「育てにくい子どもと保育」

岡明(東京大学大学院医学系研究科)

医療的なケアの必要な子どもの数が増加している。特に、医療技術の向上に伴い、重篤な後遺症が残るけれども生存できる子どもが増えている(もちろん同じ条件で後遺症の発生率は低下しているが)。これに関して、“Children and youth with special health care needs”という言葉がアメリカの医療で最近よく使われている。障害や質病などで生活や教育の場面で特別な対応が必要な児のことである。

現在、在宅酸素を受けているのは乳幼児が圧倒的に多い(他の経管医療等についても同じである)。また、特別支援学校を中心に、学校に通いながら医療的ケアを受ける児の増加している。教育関係者と医療関係者の連携、保護者の強い希望で通常級への通学も実現してきているが、小学校入学以前に、どのように集団に参加できるかという点では、保育所の役割は重要である。しかし、看護師がいる園では預かれるが、医療関係者は現場の知識が不十分であり、今後どうやって保育と医療が連携をしていくのかということは大きな課題である。

知的発達に遅れはないものの学習面や行動面で著しい困難を示す児童についても見過ごせない。こうしたケースでは、就学前から継続して医療や教育からも支援していく必要がある(しかし就学後に初めて指摘されるケースや、機関間の連携がうまくいかないケースも散見される)。

昨年、「すこやか親子21」が改定された。妊娠から出産、そして育児を見守る体制(産科医療⇒小児医療・小児科医の連携)の充実を目指すものである。 米国小児科学会の子どもの健康管理に関するガイドライン”Bright Futures” では、保護者の気づきを大事にすること、医療関係者・行政関係者が家族との「パートナーシップ」を築くことを重視している。健診でのスクリーニングから(長期間にわたる)育児支援;家族を中心としたヘルスケア(Family-centered health care)へという動きである。育児における「困り感」を拾い上げ、それが生じる状況・場面やエピソード、人間関係の特徴分析していくことが重要(その点で、保育場面は子どもの異なる振る舞いに関する情報源になる)。

ディスカッションでは、公的・行政による支援の現状や今後の課題について活発な議論が展開された

参加者の声

最近、よくライフログというキーワードを耳にするが、あまり具体的にどのようなものがあるかについては知らなかった。相澤先生のお話を伺い、発達や保育の研究者は、科学技術の進歩によって今、どういったデータ(子どもや保護者、保育者の生活記録)が取れるのかという点について、絶えず情報収集していく必要があると思った。そのくらい、現在は生活者の記録を詳細に、かつ簡便に記録できる時代になっていることを体感した。また、(既に研究会等、色々な機会は設けられていると思うが)、技術系の研究者と、特に保育系の研究者が出会い、互いの知見を持ち合ったらどのようなことができるかについて活発に意見交換することのできるフォーラム等の場が作られると、ライフログの保育研究への拡張という点で有意義なのではないかと感じた。

後半の岡先生のお話も非常に重要なものであった。これまで、当センターでは病児・院内保育、インクルーシブ保育、在宅医療・保育についてあまり議論されていなかったように思う。しかし、これらはまさに、(相澤先生のお話と重なる部分ではあるが)医療技術の向上、そして診断・評価の洗練に伴う、保育や幼児教育の現場における新しく、また急を要する課題であるように思われる。発達障がいついては、ここ10年間で次第に認知されるようになってきたが、それ以外のトピックについては世の中の人々にほとんど知られていないのではないか。そうした意味で、まずは発達や保育に携わる当センター、ならびに当センターに関わる研究者がこのトピックに関する研究に取り組み、様々な機会に発表していくことが第一歩になるのではないかと思うと同時に、行政や立法と切り離せないトピックとして、異分野間(保育-医療-行政-法律)での議論や協働を促す仕組みや機会を創出していく必要があるように感じた。

報告:高橋翠(発達保育実践政策学センター特任助教)

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