Cedep 発達保育実践政策学センター

第10回 発達基礎科学セミナー

日時
2021年7月16日 (金) 13:00〜14:30
場所
オンライン
講演

「触覚の主観性と共有技術の可能性」

田中 由浩(名古屋工業大学 大学院工学研究科 電気・機械工学専攻 教授)

 今回のセミナーにおいて、名古屋工業大学大学院工学研究科の電気・機械工学専攻の田中由浩教授に、触覚の主観性,多様性,共創の角度から、ご開発した触覚記録装置(ユビレコ、ゆびレコーダー)の背景の理論やご研究、そして、今後の展開と研究の思いなどをご紹介していただいた。

 スキンシップやスキンハンガー(肌の温もりへの飢え)、また医療現場における触覚の重要性がよく言及されてきたが、未だ触覚が情報化されていなく、触覚に関する価値創造は未開拓の状態である。触覚の内的特性を検討する際に、自己言及性と双方向性があげられた。自己言及性は自身の皮膚の変形により対象を知覚すること,いわゆる身体(力学)の面の話であり、双方向性は動作により知覚を生じ,知覚により動作を調整すること,いわゆる運動(制御)の面の話である。触覚ネイルチップに関する研究に基づき、爪と触覚との力学の関係が提案された。また、テープを指に貼り,振動機に上に置くことで,皮膚特性と触覚の変化を検討した研究において、テープの付与による皮膚特性の変化と触覚増強が観察された。なお、粗さ知覚における触動作に関する研究によって、人間が知覚課題と刺激に効果的であると思われるさまざまな戦略を自発的に使用することがわかった。これらの先行研究から、触覚が極めて主観的であり,これは触動作の違いと皮膚力学特性の違いであるためと考えられ、触覚の特徴の一つである自己言及性を示した。しかし、触覚は未だに情報化されていないので,触覚を皮膚と対象物の現象として捉えることで,触覚を明らかにしたいと田中由浩教授が思った。そのため,田中由浩教授が高速カメラを用いて,皮膚を伝播する振動を観察し,この振動によって,ウェアラブル皮膚振動センサを開発した。ウェアラブル皮膚振動センサが素指で自然に触れているときに皮膚が伝播する振動を検出することができる。人の皮膚や動きの違いにより,捉えられた触覚情報も異なるようになるが,本来触覚がそのようなものではないかと田中由浩教授が考えた。よって,このセンサの開発により,またいろいろな基礎研究が展開されてきた。

 その次、粗さ感と皮膚振動の関係に関する研究が紹介された。この研究では、材料の主要な触覚の1つである粗さの知覚に焦点を当てた。その結果、皮膚振動が主観的粗さをよく反映することを明らかにした。また、皮膚振動の個人差が自発接触力の個人差よりも小さかったということが触動作の個人差に関する研究において示唆された。そして、知覚の個人差に関する研究によって,粗さ感への寄与について,時間情報(皮膚振動),空間情報(粒子径),摩擦係数の観点から検討すべきことを知り、ある参加者にとって空間情報が重要であり,ある参加者にとって時間情報が重要であることがわかった。

 最後、田中由浩教授は触覚共有・コミュニケーションから、ウェアラブル皮膚振動センサ(Wearable sensor)によって、技術の実運用を紹介した。皮膚の伝達関数を考慮した触覚転送の技術とは、Aが物を触った時体験した感覚をウェアラブル皮膚振動センサなど設備によって,その物を触ってないBに同じ感覚を感じさせるという技術である。田中由浩教授はインタネットによる異なる空間にいる人々でも触覚のシェアの実現、拘縮触診の感覚の情報化、ウェアラブル触覚センサとAIアシストによる双実施型遠隔触診システムの研究開発、触覚の共有による人-ロボット協調作業、装飾義手への触覚付与、感覚代行リハビリテーション、Sensorimotor controlの活用(早期胃癌の腹腔鏡下切除手術)、そして、触覚の共有による共感を狙う運用(例えば,イルカの触感体験)など場面から、皮膚の振動特性による技術開発と実運用を議論した。最後、各人の触覚を情報化・伝達・拡張する技術基盤の開発によって,技と感性を共有・デザイン可能にし,持続的・発展的かつ人に優しい社会へという触覚の情報化が拓く未来を展望した。

報告: 張海妹(お茶の水女子大学人間発達科学研究科 大学院生)

参加者の声

乳幼児に関する心理学分野において、触覚が社会性の発達や、認知機能の発達における重要な機能や役割が長年で議論されてきて、重要視されてきた。視覚と聴覚と比べて、触覚経験を計測しにくく、定量化しにくい問題があるが、近年では、脳イメージの研究が進まれたことにより、相関研究が大幅に進展できた。そのため、分野を超えて、触覚の相関技術によって、まだ未解明の部分がたくさんある赤ちゃんの世界をより明白にすることができるのではないかと考えた。なお、触る感覚と比べて、行動能力が有限である赤ちゃんが触られる感覚の場合がより多いため、触られる感覚の研究も重要であると思う。なお、コロナ禍のため、他人と触れ合う機会が大幅に減少した現在では、スキンハンガーの程度が重くなっているだろう。それを考えると、触覚の共有技術の開発がすごく意義があると考えた。

いろいろ勉強になりました。どうもありがとうございました。

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