Cedep 発達保育実践政策学センター

第11回 発達基礎科学セミナー

日時
2023年6月16日 (金) 14:00〜15:00
場所
オンライン
講演

「漢字読みにおける側頭葉前部の役割:TMSとニューラルネットを用いて」

上野 泰治(東京女子大学 現代教養学部 心理・コミュニケーション学科 教授)

要旨

英語圏におけるsewといった単語や、日本語における寿司・時計といった単語など、文字と読みの関係が非典型的な単語を私たちは読むことができます。これまでの研究では、前部側頭葉がこの非典型的な単語の音読を支えることが示唆されていましたが、因果関係については未検討でした。本発表では、TMSを用いて因果関係を示した結果を紹介します。また、なぜその脳部位が当該の認知活動を支えるか、といった認知メカニズムに関する問いを検証した再帰型ニューラルネットを紹介します。深層学習アルゴリズムを使用した最新のモデリング手法ではありませんが、簡易的なモデルでも、音読能力の獲得(発達)・低下(脳損傷)や、識字教育方法などを検証できる可能性について、皆さまと議論出来ると幸いです。

本セミナーは、科学研究費補助金基盤(B)「乳児の泣き声にみる言語・音楽性の起源:深層学習と発達認知神経科学の融合」との共催です。

報告

言語学や神経科学・計算機実験など多くの分野が絡む内容でしたが、先生のご説明が非常にわかりやすく、最後まで面白く聴かせていただきました。前半では、側頭葉前部損傷患者やfMRI、TMSでの研究から側頭葉前部の活動が非典型的な読みに関わっていることをお話ししていました。後半では、発話に関連する4つの脳領域を模したニューラルネットワークで実験結果を再現していました。4つの領域がそれぞれ、視覚・聴覚・発話・意味理解に対応するように学習させ、意味理解に関わるネットワークにノイズを加えると側頭葉損傷患者やTMSの研究同様、非典型的読みのみで成績が悪化することが示されていました。結果がとても明瞭で、側頭葉前部が非典型的な単語の読みに関わっていることは確実だろうと感じました。実際のヒトが言語を獲得する過程にはまだまだ未解明な点が多いと思うので、モデリング研究に発達という観点が組み合わさることで今後も多くのことが明らかになるのではないかと感じました。

報告: 藤平遼(東京大学大学院教育学研究科 大学院生)

参加者の声

  • コンピュータでモデルを作って学習させるという方法について詳しいお話が聴けて、非常に興味深かったです。
  • 現在、支援が必要な子ども(認知症や学習障害、自閉症や精神的障害を持つ子どもたちなど)の教育開発を行っております。今回の講義は素人の私のような者にも非常にわかりやすく説明してくださり、たいへん勉強になりました。
  • 日本語を母語としないお子さんの乳幼児期の日本語文字学習支援について、上野先生のモデルを用いて介入プログラムを開発することができるように思いました。ありがとうございました。
  • リハビリ過程において、過去経験の統計情報が用いられる可能性というのは、現実場面と参照して理解しやすいと感じました。具体的には、現実のリハビリにおいては、身体情報として残っている感覚と言語の結びつきが、失われた言語を思い出す手がかりになる、という場面を目にしたことがあります。
  • 私は工学系研究科の学生ですが、音読の習得のモデル化が紹介されていたようなシンプルなモデルで実現可能だと言うのは非常に驚きました。また、脳刺激法についてはじめて話を伺ったため、このような手法があると知ることができたことも勉強になりました。

関連リンク

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