Cedep 発達保育実践政策学センター

公開シンポジウム「乳幼児期からの縦断研究-幸せな人生のために何が必要か」

日時
2017年3月12日 (日) 10:00〜16:30
場所
福武ラーニングシアター(東京大学本郷キャンパス)
主催
発達保育実践政策学センター
共催
全日本私立幼稚園幼児教育研究機構
後援
国立教育政策研究所/文京区/日本発達心理学会/日本乳幼児教育学会/日本赤ちゃん学会
お申し込み
事前申し込み制 先着 200名 参加費無料

プログラム

開会挨拶 田中 雅道(全日本私立幼稚園幼児教育研究機構 理事長)
伊藤 学司(文部科学省 初等中等教育局 幼児教育課長)
秋田 喜代美(東京大学大学院教育学研究科 発達保育実践政策学センター長)
講演 1 10:15~12:00
人生初期のスキルがその後の成果にもたらす影響
The Impact of early life skills on later outcoms
Pro. Ingrid Schoon(Human Development and Social Policy, University College London, Institute of Education)
講演 2 13:00~14:30
ドイツの乳幼児教育・ケア(ECEC)における改革と縦断研究の貢献
Ongoing reforms of ECEC in Germany and the contributions of longitudinal research
Pro. Bernhard Kalicki(the Department of Children and Child Care, the German Youth Institute)
パネル
討論
14:45~16:15
Pro. Schoon×Pro. Kalicki×無藤 隆(白梅学園大学)×秋田 喜代美(東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター センター長)×遠藤 利彦(東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター 副センター長)
閉会挨拶 遠藤 利彦(前掲)

資料

開催報告

参加者の声

  • 近年、幼少期の育ちの重要性は、社会的なコンセンサスを得て、様々なレベルで語られている。しかし、どのような幼少期のありようが、将来の成果と関連しているのか、実証的研究(エビデンスベース)が欠如したまま、言説(うわさ)ベースで幼児教育、家庭教育、園環境は右往左往し、本来中心に置かれるはずの子どもが振り回されているのが日本の保育の現状であるようにも感じる。 「質の高い幼児教育とは何か」。今回のシンポジウムでは、こうした日本の保育が、改めて捉え直さなければならない喫緊のテーマに関して、先進的な縦断研究を実施されてきたイギリス、ドイツの視点から深く考える事ができた。

    文部科学省伊藤課長が述べられたように、「子どもたちの目が輝くから」ということだけでは、政策立案、保育の現場に携わるステークホルダーに対して説得的な理解を得られない。今後、認知的能力はもちろんのこと、非認知的能力、社会情動的スキルなど、幼少期の発達がどのように後年の育ちと関連しているのか、乳幼児期からの長期縦断研究に挑戦していく必要性を強く感じた。

    その際に、イギリスのショーン教授から示された『スキルの花』における、人の持つスキルの多様性と複雑性を考慮することが大事なポイントになるであろう。これまでの研究の主流を占めていた、単一のスキルと単一のアウトカムのみならず、個人の様々なスキルがどのように影響を相互に与えているのか、さらに個人の強みと弱みのコンピテンスがいかに補完しあっているのかという相互補完性に関してもさらなる検証が求められる。

    日本の保育が歴史的に積み重ねてきた叡智を今一度掘り起こし、新しい知見を加え、子ども一人ひとりにハピネスがもたらされるような、質の高い保育の実践を期待したい。


  • 今回、特に感じたことは以下の3点である。

    第一に、縦断研究についての理解がとても深まる機会となった。これまで、保育・幼児教育で大切にすべきことをより可視化し、多くの人々に伝えるためにエビデンスが重要であること、特に縦断研究は重要な根拠となることは認識していた。そして実施の難しさだけでなく、実施後にどのように解釈するのかということもあまり想像がつかない状態であった。今回のシンポジウムを受けて、縦断研究にはやはり時間、お金、労力がかかること、しかし発達の視点や社会的な出来事への視点など多角的に見ることによって明らかになる内容の意義は大きいことを感じた。

    第二に、能力(「姿」)を可視化することの重要性を再認識した。Shoon先生の講演を聴きながら、「能力」について頭では理解しつつも日本の文化とはどこか違うという感覚があった。そして能力という限り、非認知的であっても測定するイメージがどうしても抜けない。それに対して、無藤先生の講演では日本の文脈と比較し共通点も示すような内容であり、改めて考えることができた。Shoon先生、Kalicki先生の講演から現状を学んで終わりにするのではなく、日本の先生方のお話があったおかげで、比較しながら、より身近な話として考えることができた。子どもの「育って欲しい姿」として言語化した上で、同じ日本の中でも異なる地域文化・園文化があるため、それぞれの施設が状況に応じてまた自分たちの言葉で言い換えることで、また実践の深まりにつながるのではないかと思った。

    第三に、(第一の点と重なるが)生涯発達という視点についてである。多くの場合、他人(身内を含む)の幸せについては、人生の特定の時点での状態(子どもであれば、受験の合格など)から判断してしまいやすい。しかし、秋田先生のお言葉にもあったように、本人がその時期を振り返って「幸せな時間を過ごした」と感じることは、きっとその後の主観的な充実感につながると感じる。人生の最初期の乳幼児期が幸せな時期として振り返れるものとなるよう、そしてそのために、親になる人もできる限り安心して過ごせるよう、皆が考えていくことが欠かせない。関連して、Kalicki先生の研究にあった母親の抑鬱感の増減についての、その前後の就職有無別の調査は興味深かった。どのようなサンプルなのか、出産前の抑鬱感の違いが何に起因するのかなどという疑問はあるが、今後単なる就労支援ではなく出産・育児を含めた包括的な親支援を検討する上で、非常に考えさせられる内容であった。


  • 12日のシンポジウムはとても面白かったです。

    Schoon教授の発表内容について、社会的・情緒的・認知的スキルの分類や、既存のデータを用いてメタ分析をした結果はとても興味深いと思いました。また、身体的スキルにおいて、運動感覚スキルについて、もっと知りたいと思いました。アメリカのNICHDなどの縦断研究では、幼児期の自己制御は将来のアウトカムにとって重要だという結果を読んだことがあります。さらに自己制御と異なる、様々なスキルが将来の結果とつながっていることに感心しました。幼児期は本当に大事であり、エビデンスで証明されたことに実践と政策に影響をもたらすことができたらいいなと思います。そして、具体的な例としてあげられた評価ツールも興味深く、さらにこのような評価ツールを知りたいと思いました。

    また、Kalicki教授のレクチャーについて、特に夫婦関係の悪化に関するデータに驚きました。一緒に子どもを産んで、育てるのは、とても楽しそうなイメージでしたが、子育てが夫婦関係に悪く影響するというのは、本当に驚きました。もちろん、子育ては決していいことばかりではありませんし、夫婦ともに大きいなストレスを与えるし、自分の時間や二人の時間を削って、子どもの世話をしないといけません。さらに、Kalicki教授が発表した内容から、夫婦の間に広がる収入差が夫婦の関係の悪化と関連しているかもしれません。このような様々の要因が縦断的なデータで現れていることは、とても面白く、長い年月を経て収集したデータでしか描けないと思います。


  • 長期縦断研究は、大規模で行なう必要があり、コストもかかるという印象から、何が得られ、どのように重要かについての理解も検討も十分でなかったが、今回シンポジウムに参加させていただいたことで、もっと身近でかつとても重要なものであるとの認識を高めることができた。

    Schoon氏の発表は、結果とスキルとの関係が明確に表されていて、長期縦断研究への興味と関心が高まった。今回発表された結果では、家庭や保護者の状況が統制変数として採用される等、改革に際し必要で実行可能な要因が究明されている。また、スキルの組み合わせが重要であるとの言及も興味深かった。というのも、事象を細分化した際に出現する様々な要因が個々に、ある種の結果を予測することは推測されうることだが、実際の生活では、それらの要因がそれぞれに出現することは少ない。ゆえに特定の要因において予測された結果というものは、日々の生活や状況に応じて構成され続ける社会における成果とは必ずしも一致しないからである。しかしSchoon氏の知見と展望は、そうした実践感覚で得ている実感を裏付けるエビデンスになり得る可能性を持つものとして、期待が持てた。

    Kalicki氏の発表では、ドイツにおいて3歳児未満児への保育環境の充実が図られようとしていることが伝えられ、乳児保育の充実に関わる保護者支援に寄与する知見が提示された。質疑応答も含め、Kalicki氏の語りの中では特に、保育者の労働条件の改善について言及されたことが興味深かった。殊、保育の質向上というと、保育者のスキルの向上やいかに優秀な人材を確保するかといったことに焦点が当てられがちであるように思われるが、Kalicki氏は、保育者のスキルが発揮できる場としての改善を図る必要性について語られた。保育観にも関わる大切な示唆を得たように思う。

    パネル討論では、スキルをもとに現れる子どもの活動の様子である「姿」を中心とした検討を行なうこと(無藤氏)や、実践仕様にアレンジされたリアリティある理論が必要であること(遠藤氏)などの課題や展望が印象深かった。Schoon氏の語りにもあったが、長期縦断研究は、測定する能力を何にするかが重要である。現在必要とされている能力だけではなく、将来的にも必要とされる能力を見極めて研究をデザインしていく必要がある。よって長期縦断研究においては、そのような姿勢において読み解かれる基礎研究や中期的な縦断研究による成果と合わせて検討していくこともまた必要なのであろう。 語るべき展望とその方法について、検討し、理解が深まった一日であった。

報告書

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公開シンポジウム「乳幼児期からの縦断研究-幸せな人生のために何が必要か」報告書_20170312シンポジウム

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