Cedep 発達保育実践政策学センター

認知・非認知発達に関する実験的研究

このプロジェクトについて

保育・養育環境での乳幼児への関わりの質を見直す上で、乳幼児の外界(人や物体など)に対する情報処理能力の理解や、その個人差に関わる環境要因の理解は大変重要な課題です。本プロジェクトでは、乳幼児を対象とした実験的アプローチにより、1)認知・非認知機能の発達を行動・生理的反応から定量的に評価し、2)こうした発達に影響しうる社会的要因を多角的な視点から検討することで、良質な保育・養育環境の構築に向けた新たなアプローチの提言を目指しています。

注意機能の発達基盤の解明

乳児の視線を利用した研究から、乳児は早期から周囲の環境に自発的に注意を向け、人や物体のさまざまな特徴を知覚・認知していることなどが明らかになっています。特に、目標に沿って注意を向け、周囲の環境から選択的に情報を抽出する能力は、その後の認知・言語機能の発達にとって重要ですし、さらに、非認知能力として注目される「粘り強さ」「好奇心」といった能力の基盤になるものでもあります。しかし、こうした注意機能の発達に関わる神経基盤や社会的要因については未解明の点が多く残されています。

私たちは、生後1年目から2年目にかけての乳児を対象に、視線の向け方をアイトラッカー(視線計測装置)により測定し、注意を制御する能力の評価や、こうした能力が養育者との関わりによってどのように影響を受けるかといった点を検討しています。また、視線計測と同時に抹消生理活動(心拍、呼吸、瞳孔など)を測定し、視線探索のパターンの個人差に関わる要因についての検討も行っています。

主な研究成果

  • Shinya, Y., & Ishibashi, M. (2022). Observing effortful adults enhances not perseverative but sustained attention in infants aged 12 months. Cognitive Development, 64.
  • Shinya, Y., Kawai, M., Niwa, F., Kanakogi, Y., Imafuku, M., & Myowa, M. (2022). Cognitive flexibility in 12-month-old preterm and term infants is associated with neurobehavioural development in 18-month-olds. Scientific Reports, 12(1).
  • 新屋裕太・石橋美香子・野澤祥子. (2020). 好奇心といないいないばあ:乳幼児の視覚的注意の発達的変化および個人差の検討. 日本赤ちゃん学会第20回学術集会 (9月19日, 九州大学, 福岡).

関連書籍


表象機能の発達とその「ゆらぎ」

象徴機能は、今目の前に存在しないものを別の事物に置き換えて認識する働きです。このような機能は、ヒトの認知・言語機能に必要不可欠な能力であり、その発達過程については、発達心理学の主題の一つとして長年にわたり研究されてきました。近年は、乳幼児期の象徴機能の発達には、ある種の「ゆらぎ(非線形性)」が存在することが明らかになりつつあり、その発達的・臨床的な意義にも注目が集まっています。

例えば、幼児期に観察される「スケールエラー(※自分の身体に明らかに適さないミニチュアの対象に自分の体を無理やり当てはめる行動)」などの現象は、象徴機能の発達過程において一時的にみられる現象で、幼児の行為やモノについての概念が未分化な状態を反映している可能性があります。

私たちはこうした行動現象のメカニズムや役割を明らかにするため、ふり遊びや初期言語の生成過程との関連性について検討しています。このような検討を通して、動詞の語彙数が増え始めた時期に、養育者から指示詞(例:「これで遊ぼう」)よりも名詞(例:「車で遊ぼう」)を使って話しかけられた方がスケールエラーが誘発されやすくなることなどが明らかになっています(Hagihara et al., 2022 JECP)。

主な研究成果

  • Hagihara, H., Ishibashi, M., Moriguchi, Y., & Shinya, Y. (2024). "Large-scale data decipher children’s scale errors: A meta-analytic approach using the zero-inflated Poisson models." Developmental Science, e13499.
  • 大阪大学大学院人間科学研究科の萩原広道助教、江戸川大学社会学部人間心理学科の石橋美香子講師、京都大学大学院文学研究科の森口佑介准教授、東京大学大学院教育学研究科の新屋裕太特任助教らの研究グループは、幼児に特有の行動である「スケールエラー」が、発達のどの時期にどのくらい生起するのかを、大規模データを用いて世界で初めて明らかにしました。さらに、スケールエラーとの関連が指摘されていた言語発達について、動詞や形容詞の習得が特にスケールエラーの生起と密接に関わっている可能性を発見しました。本研究成果は、2024年3月29日(金)14時(日本時間)に、発達科学誌『Developmental Science』に掲載されました(オンライン)。

    論文Webページへ 研究成果>論文 Large-scale data decipher children’s scale errors: A meta-analytic approach using the zero-inflated Poisson models.のDOI情報から閲覧先に移動できます。

    江戸川大学・大阪大学共同プレスリリースhttps://www.edogawa-u.ac.jp/img/media/26932.pdf

  • Hagihara, H., Ishibashi, M., Moriguchi, Y., & Shinya, Y. (2022). "Object labeling activates young children’s scale errors at an early stage of verb vocabulary growth." Journal of Experimental Child Psychology, Vol. 222, 2022.
  • Hagihara, H., Ishibashi, M., Moriguchi, Y., & Shinya, Y. (2022). Data from Object Labeling Activates Young Children’s Scale Errors at an Early Stage of Verb Vocabulary Growth.” Journal of Open Psychology Data, Vol. 10, No. 1.
  • 石橋美香子・萩原広道・森口佑介・新屋裕太. (2021). 物体名詞を強調した教示がスケールエラーの生起に及ぼす影響. 日本赤ちゃん学会第21回学術集会, 東京.
ページトップ