科研費基盤研究(S)
「保育の質と子どもの発達に関する縦断的研究―質の保障・向上システムの構築に向けて」
日本学術振興会・科学研究費補助金による基盤研究(S)研究課題「保育の質と子どもの発達に関する縦断的研究―質の保障・向上システムの構築に向けて」(令和元年度〜令和5年)を実施します(研究代表者:野澤 祥子)。
研究の目的
乳幼児期に経験する保育の質が生涯の心理社会的適応や幸福に影響することが、欧米を中心に行われてきた長期縦断研究により実証され、乳幼児期の保育が世界各国で政策上の優先課題とされています。わが国でも保育の量的拡大が急激に進行し、幼児教育・保育無償化などの新しい政策が施行される中、保育の質の実態と子どもの発達への影響過程を的確に把捉し、質の保障・向上を支援するシステムを構築することが喫緊の課題となっています。
本研究では、第一に、保育の質を多面的に評価し、その実態を把握するとともに、保育の質が子どもの発達に影響する過程を縦断研究によって詳細に検討します。第二に、保育の質の保障・向上に向けた自治体の取り組みの実態を調査します。第三に、上記の調査結果に基づき、自治体と園の効果的取り組みのあり方を構想し、実装します。
以上の研究を通じて、保育の質の保障・向上を支援するシステムの構築に向け、多層的・多面的な知見を得ることを目的とします。
研究の方法
研究Ⅰ:保育の質が子どもの発達やストレスに与える影響過程の検討
保育の質と子どもの発達との関連について、0歳児クラスからの追跡調査を行います。調査開始に当たっては、研究協力者への説明と依頼を丁寧に進めます。
保育の「構造の質」に関しては、従来から検討されている保育者と子どもの比率等に加え、独自に開発した環境センシングシステムを保育室に設置し、温度・湿度・CO2濃度・騒音等の居住環境を調査します。「過程の質」に関しては、国際的な保育の質評価ツールに加え、独自に開発した日本の保育の質評価ツールを用います。さらに保育者の子どもへのかかわりは、情緒的利用可能性(emotional availability)という観点から評価します。
研究Ⅱ:保育の質の保障・向上に向けた自治体の取り組みの把握
自治体担当者とその自治体内の園関係者に対して、取り組みやその実施経緯、直面した課題等についてヒアリング調査を行います。また、全国すべての基礎自治体を対象として、子育て・保育に関する取り組みについての質問紙調査を実施し、全国的な実態の把握を行います。
研究Ⅲ:保育の質の保障・向上に向けた取り組みの構想及び実装
上記の研究の知見に基づいて、保育の質の保障・向上に向けた効果的な取り組みを構想し、その一部を自治体・園との協働で実施します。
期待される成果と意義
本研究では、保育の質と子どもの発達との関連を縦断的に検討します。その際に、保育の質に関して従来検討されてきた点に加えて、環境センシングや日本の保育の質評価ツールを用いることで、独自性の高いデータが得られると考えています。また、質の保障・向上において重要な役割を果たすと考えられる自治体の取り組みについても詳細に検討します。このように多層的・多面的な知見を得ることにより、保育の質の保障・向上を支援するシステムの構築に寄与したいと考えています。
調 査
論 文
野澤祥子・淀川裕美・中田麗子・菊岡里美・遠藤利彦・秋田喜代美
保育・幼児教育施設における新型コロナウイルス感染症に関わる対応や影響についての検討(2) ー2020年度・2021年度の動向と調査結果からー
『東京大学大学院教育学研究科紀要』第61巻 2021(2022年3月発行)
野澤祥子・淀川裕美・菊岡里美・浅井幸子・遠藤利彦・秋田喜代美
保育・幼児教育施設における新型コロナウイルス感染症に関わる対応や影響についての検討
『東京大学大学院教育学研究科紀要』第60巻 2020(2021年3月発行)