Cedep 発達保育実践政策学センター

病棟保育研究

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研究成果

※web公開可能な資料のみ掲載・ダウンロード可能です。

「病棟保育士と医師との協働に関する調査」報告書 資料のクリックでデジタルブックが開きます

2020年2月に調査を行った「病棟保育士と医師との協働に関する調査」の報告書を掲載いたします。

これまで、病棟保育士と他職種との協働に関しては、病棟保育士と他のコメディカルとの協働などが検討されてきた一方で、保育士と医師との協働については十分に検討されてきませんでした。

そこで行った昨年度の小児専門病院勤務の医師を対象に行なった予備調査では、病棟内の保育士に期待する声があると同時に、「実際何をやっているのかわからない」「他のコメディカルとの違いをわからない」など、協働する上での課題も散見されました。今後病棟保育がより一層普及し、専門性を向上していく上で、医師と効果的に協働することは必要不可欠であると考えられます。

そこで本調査では保育士と医師との協働の様相を把握すべく、保育士の人数、雇用形態などが異なる4つの小児専門病院を対象に調査を実施し、保育士・医師間の交流の度合いなどをお尋ねした上で、互いの職種に対する認識や協働のしやすさ、しにくさ、その要因などについて探索的に検討することを目指します。

病棟保育に関する全国調査~小児病棟=育ちの場としての質を豊かに~

1954 年に初めて保育士(当時は保母)が病院で働き始めて以来、こども病院の病棟や小児病棟で働く医療保育士、所謂病棟保育士の存在は全国に広まってきています。また、いわゆる「プレイルーム・保育士加算」と呼ばれる保険点数がつくようになってから既に10 年以上が経過しています。しかしながら、依然として、病棟保育に関するガイドラインや指針などが作成されることもなく、現在でも、病院や病棟の状況によって様々に異なる業務が行なわれているという報告もあります。このような背景の中、現在、どのような病院に、どのような保育士が、どのように勤務しているのか等、2つの調査を組み合わせることによって、病棟保育の実態の把握を多面的に捉えることを目指し、日本全国の小児科・小児外科を標榜する病院 2686 施設を対象とした調査を実施しました。本調査は「病棟保育の業務実態の把握」と「病棟保育の数の把握」を目的としていました。

調査結果の概要は、<速報版>に掲載されています。また、センター主催のシンポジウムや各種学会で結果を順次報告しております。

2017年度発達保育実践政策学センター公開シンポジウム「人生のはじまりを豊かに~乳幼児の発達・保育研究のイノベーション~」 於;東京大学, 2017年8月

病棟保育に関する全国調査ー小児病棟=育ちの場としての質を豊かに―

石井 悠(東京大学大学院教育学研究科博士課程)

今回は、医療保育の中でも、こども病院や総合病院の小児病棟の中で入院している子どもを対象とした保育を病棟保育と呼ばせていただきます。医療技術の進歩により、大きな病気をしたり小さく生まれてきたりしても、その後、退院し日常生活を送れるようになる子どもが増加してきています。その中で、子どもの育ちを下支えするさまざまな経験や関わりが剥奪されやすい入院環境において、子どもの育ちを重視する保育を取り入れているのは世界で日本が初めてです。しかし日本でも、依然として公的なガイドラインや指針がないために、さまざまな問題が長く報告をされてきました。その一歩で、現時点で病棟保育士のどのような働きに、どの程度ばらつきがあるのかを示す調査もないのが現状です。

そこで、本研究では、電話調査を用いて病棟保育の数の把握を、また、アンケート調査を用いて病棟保育の業務実態の把握を目指すこととしました。対象としたのは小児科・小児外科を標榜する全国2,686の病院です。本調査の最大の特徴として、保育士とその上司の回答を1つの病院の中で紐づけていることが挙げられます。ただしこの時、調査票番号と病院の情報は紐づけていないため、病院の特定はできないようにないようになっています。

今回の調査から196の病院(回答いただいた病院のうち7.3%)で一般病棟に保育士が配置されていることが分かりました。そして最も多くの76%の方から、入院する子どもに対する保育の必要性を感じたために保育士を導入したという回答が得られました。業務内容をみてみると、多くの病棟保育士は、子どもの成長発達に寄与しうる遊びやスキンシップ、行事などや、家族の支援(話を聞くことや子どもの様子を伝えること)を高い頻度で行っているということが明らかになりました。

その一方で、保育方針・保育計画がない病院も多く、また、安全な保育を行うために必要十分な情報の収集・共有に関しても実施の程度にばらつきがあることが示されました。さらに役割ストレスという観点から保育士の方々の気持ちを検討したところ、病棟保育士が役割ストレス(役割葛藤・役割曖昧性・役割過重)を経験しており、得に役割曖昧性を経験しているほど「できるだけ長く病棟保育士として働きたい」という気持ちが弱いことなどが示唆されました。また病院全体への寄与を見てみると、病棟保育士の上司のほとんどが病棟保育の必要性を感じている一方で、およそ6割が、病棟保育のあり方や体制を変える必要性を感じていることが示されました。

このように見ていきますと、病棟保育の役割を定義していくのは難しいのかと思われてしまうかもしれません。ただ、多数ある病院の中には、できるだけ質の高い病棟保育を実践しようと試みている病院が多くあることも示唆されました。本調査の作成ご協力いただいた保育士の方の所属病院の事例をご紹介させていただきますと、例えばプレイルームは、子どもが受け身にならざるを得ないことが多い病院の中で、子どもたちが主体的に、自主的におもちゃや遊びを選択できるように工夫されています。また、保育士用の記録をつけることで、どの病棟にいつ入院をしてきても、継続した一貫性のある保育実践ができるように工夫がさ れているとのことでした。

病棟保育の曖昧性は、子どもはもちろんですが、病棟保育士自身や病院全体にとってもマイナスであると思います。病棟保育は、入院する子どもの不安やストレスの軽減にとどまらず、子どもの成長発達すなわち育ちを支えるものであるという原点に立ち返り、それぞれの病院の中でその役割を再検討していく必要があるのではないでしょうか。現在の病棟保育の実態について、その数のみならず業務内容について広く、踏み込んで捉えることができたことが、本調査の大きな意義であったと考えています。今回ご協力いただきました皆さま、誠にありがとうございました。

    

解 説

遠藤 利彦(東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター 副センター長)

子どもにとって病棟という所は、ただ病気の治療、癒しの場としてあるだけではなく、本来であれば育ちの場としてもあらなければいけません。そのためのcareの中核にあるのは、子どもが怖くて不安時に、どれくらいしっかりとくっついて安心感を取り戻すことができるか、アタッチメントと行くことになる気がします。このような観点から見たとき、病棟で生活するお子さんは、恐れや不安が高い頻度で生起してアタッチメントシステムが強度に活性化されていながら、分離をしばしば余儀なくされて、避難所が不在であるということ、また、本来一番きちんと担保されなければいけない自発的な探索が非常に大きい制約を受けてしまうということなどが、大きい問題だと思います。

このような中で、実は保育士さんたちが果たす役割は潜在的に非常に大きいと思います。

まずは確実にくっつける人として、やはり保育者の先生が基地としてあり続けることの重要性です。

さらには、やはり子どもを知っているからこそ可能な範囲で探索欲求を満たすこともできるはずだと思います。また、やはりそれでも行動上の制約がある場合に、なぜ自分だけが遊んではいけないのという不条理に対してきちんと説明できる人、それもまた保育者の先生だと思います。

ただ、今回の調査結果の中で浮かび上がってきたことは、病棟の保育士さんたちの役割の曖昧性だったと思います。実はその曖昧性は、保育士さん自身にとってマイナスであるだけでなく、子どもの発達や家族支援、そして病院全体、全てにとってマイナスな働きをしていると思います。では、その曖昧性をどうやって誰が変えるかといったときに、公的ガイドラインの早急な準備は必要なのではないかと個人的には思っています。そして病院の中の構造改革、さらには、やはり病棟保育士さん自身がプライドと専門性の自覚を持って意識を改革し、スキルアップをすることが必要なのだろうと考えた次第です。

    
シンポジウム詳細

病棟保育に関する全国調査ー小児病棟=育ちの場としての質を豊かに―報告書 資料のクリックでデジタルブックが開きます。ダウンロードしてご利用になれます。

病棟保育に関する全国調査_報告(石井悠)

病棟保育に関する全国調査_速報版

病棟保育に関する全国調査_解説(遠藤利彦)


論文

石井悠・土屋昭子・高橋翠 (2023)

小児専門病院における病棟保育士と医師との協働

『小児保健研究』第82巻 第6号, 484-497.

(画像はクリックで拡大します)

この研究では、病棟保育士と医師とがどのように情報共有し、連携・協働しているのかについて、その実態の一部を把握することを目的として、2020年2月(コロナ禍直前)に小児専門病院4施設の常勤医師と常勤・非常勤の保育士を対象に質問紙調査を行いました。その結果、148名の医師と43名の保育士にご協力をいただき、施設によって病棟保育士と医師との情報共有の機会やそこで共有される内容に違いがあることが明らかになりました。情報共有の機会が多く、共有される情報も多岐にわたる施設がある一方で、電子カルテへの記録を行わない・行うことができないなど、情報共有の機会が少なく、保育士から提供される情報が限定的な施設もあることが明らかになっています。その一方で、全施設において子どもの様子や医師に言いにくいことなどの情報が提供されていれば医師が参考にし、子どもとの関わり方に活かすことや、調査協力者の多くが病棟保育士と医師との連携の必要性を認識していることが明らかになりました。次の図では、該当の情報が病棟保育士から提供されている場合に、医師がどの程度その情報を参照することがあるかを示していますが、ほとんどの項目について、多くの医師が「たまに」もしくは「頻繁に」参照していることがわかります。

また、病棟保育士からの情報をもとに、患者である子どもへの説明の仕方を変えたり工夫したりすることもあることが明らかになりました。

医師が働きやすくなるため、保育士が働きやすくなるため、ではなく、入院する子どものために真に求められる協働・連携について、今後さらに検討する必要があります。

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石井悠(2023)

入院中の子どもが経験するイルネス・アンサーテンティに対する病棟保育士の影響可能性

質的心理学研究, 22, 180-205.

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石井悠・高橋翠・岡明・遠藤利彦

全国の病棟保育に関する実態と課題 第2報

『小児保健研究』79巻 4号, 371-379(2020年7月発行)

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石井悠・高橋翠・岡明・遠藤利彦

全国の病棟保育に関する実態と課題 第1報

『小児保健研究』第78巻 第5号, 460-467(2019年9月発行)

[論文閲覧先]
『小児保健研究オンラインジャーナル』78巻5号460-467 2019
【クリックしてPDF全文ダウンロード(1.52MB)】

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石井悠

病棟保育士の役割の検討:小児一般病棟に勤務する保育士を対象として

医療と保育, 16, 40-55(2018)

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石井悠

病棟保育士が経験する道徳的問題に関する質的検討

チャイルド・サイエンス, 14, 24-28(2017年10月発行)

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学会発表 資料画像のクリックでデジタルブックが開きます

石井 悠 (2017)
「育てる者の,情(へ)の知性 領域特異的情動知性の提案へ向けて」
子どもの育ちを支える病棟保育士の関わり
日本発達心理学会第29回大会自主企画シンポジウム(話題提供),於:東北大学,2018年3月24日

石井 悠 (2017)
NICU・GCUにおける病棟保育士の実態 ー数と業務内容の実態把握を目指してー
日本赤ちゃん学会第17回学術集会(ポスター),於:福岡,2017年7月7日

石井 悠(2017) 
病棟保育士が経験する倫理的葛藤の検討
日本発達心理学会第28回大会(ポスター),於:広島,2017年3月27日

石井 悠 (2017)
「日本人研究者による英語口頭発表―ICP2016を前に―」
Medical childcare staff: their potential role in hospitals
日本感情心理学会第24回大会前日若手企画2(話題提供),於;筑波大学,2017年6月17日

石井 悠 (2016) 
病棟保育士の働きの背景にある信念の検討
2016年度発達保育実践政策学センター公開シンポジウム「今、日本の保育の真実を探る」(ポスター),於;東京大学,2016年9月

石井 悠(2016)
「子どもへのかかわりから見える保育者の専門性」
病棟保育士の専門性~子どもの生涯発達に対する役割を探る~
日本発達心理学会第27回大会シンポジウム(話題提供),於:北海道大学,2016年5月1日

その他

石井悠・土屋昭子 (2018) 小児病棟におけるアタッチメント
(特集 最新・アタッチメントからみる発達)発達, 153, 67-72

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